地域の持続可能性とは何か

 前回の記事では、地域活性化の本質は地域の持続可能性を高めることだということを解説した。そこで今回は、地域の持続可能性とは何かを考えてみたい。

 地域が持続していくためには、人口を維持することが必要であることは論ずるまでもない。そのために出産・子育て支援や移住促進政策などを推進している地域も目立つ。しかし、直接的な人口対策が適切なのだろうか。今回はこの点を掘り下げてみたい。

人口の維持に必要なこと

 (東京などの都市部を含め)各地域の少子高齢化が進む中で、ほとんどの地域では人口減少に悩まされており、消滅可能性都市などという言葉も生み出された。各地域でも人口を維持するために、出産・子育て支援や移住促進など、地域の人口を少しでも増加させるための政策が行われている。中には関係人口の増加を推す声もあるが、これには人口(定住人口)の増加を諦めかけているような思いも見え隠れする。しかし、人口の増加さえあれば、本当に地域活性化や地域の持続性向上につながるのだろうか。

 世界には深刻な人口増加に悩まされている都市もあり、そのような状況は地域活性化には程遠いと言えるだろう。
 人口を政策的(半強制的)に移入させることによって人口の増加や維持を狙うことも、地域活性化とは言い難い。半強制的でなくても、人口を維持することだけを目的に、多額の費用を投入し続けることが地域活性化とも言えないだろう。

 それならば、何をもって地域が持続可能な状態であると判断すればよいのだろうか。

域際収支

 地域が持続できるかどうかは、地域に入ってくる資金(=地域の総収入)と地域から出ていく資金(=地域の総支出)を比較すれば分かる。総支出に対して総収入が少なければ、やがて財産を使い果たして地域は存続できなくなるからだ。
 この[地域の総支出]から[地域の総収入]を引いたものを域際収支と呼んでいる。地域の持続可能性を測るためには、それ以外にも考慮しなければならない要素があるが、少なくとも域際収支が大きくマイナスのままでは地域は存続できない。つまり、地域活性化において域際収支の均衡は必要条件なのである。

 重要なことは、域際収支とは地方自治体の財政収支のことではなく、地域のすべての住民、企業、公的機関の収支の合計であるという点である。つまり、地方自治体の財政収支のバランスが取れていたとしても、民間の収支のバランスが悪ければ地域の持続可能性は維持できなくなる。

 現在多くの地域では、収支がすでにほぼ均衡状態になっている。しかし、それは総収入に地方交付税や補助金、個人による仕送りなど、地域外からの対価を求めない(政策的な)収入が含まれているからである。こうした収入は、地域としては主体的でない収入であり、一見すると安定しているようにみえるが、国全体の人口が減少したり経済状況が悪化したりすれば減少する可能性があるため、実は不安定なものである。
(他にも地域として主体的でない収入には固定資産税などがあるが、これについては地域の持続性の観点からはいくらかの問題を抱えているので、別な機会で詳しく触れることにする。)

 そこで、地域が安定して持続していくためには、地域外からの主体的な収入の割合を増やしていく必要がある。主体的な収入とはどのようなものかといえば、

  • 地域外に対する商品・サービスの売上
  • 地域外からの来訪者(観光客など)に対する商品・サービスの売上

 などである。

 また、域際収支の改善には、地域からの支出を減らすことも効果がある。地域からの支出を減らすために有力な手段としては、

  • 地域内での消費のうち、地域内で生産したものの割合を増やす(地産池消)

 という取り組みがある。但し、地産池消は地域の支出を減らすものであって、収入を増やすものではない。また、地域内産物の生産・流通のために、通常は地域外に対して何らかの支出が発生する。そのため、地域外から購入するものを地産池消に切り替えた場合、それ単体では域際収支の改善になるが、地域外から購入する金額が減少しなければ域際収支を改善できるわけではないことに注意しなければならない。

※ここでは金銭取引を伴う活動のみを事例としているが、農村などで行われている収穫物の物々交換なども、地産池消と同様の効果がある。

 それでは、誰が域際収支の改善を意識するべきなのだろうか。基本的には、地域住民、地域企業、地域行政など、地域のすべての構成員が域際収支の改善を意識していかなければならないといえる。
 1980年代以前のように、域際収支に貢献しやすい製造業や農林水産業などが全国に立地していた頃は、一般住民が特に域際収支を意識しなくても地域に資金が回った。しかし、近年比率が増えている小売業や建設業などの産業は、必ずしも域際収支の改善に貢献するわけではない(むしろ悪化させることもある)。
 そのため、現代は地域構成員の一人一人が域際収支の改善(⇒地域の持続性⇒地域活性化)について考えなければならない時代になっていると言えるだろう。

産業こそ地域の持続性の柱

 前述の通り、地域の持続性を維持するには域際収支の維持が必要である。一方、全国、全世界規模の流通が活発化している現在、地域で暮らしていても、地域外から流入してくる商品やサービスに頼らざるを得ない状況になっている。この状況下で域際収支を均衡させるには、それと同等の金額分だけ地域から外部への販売が必要になる。従って、地域の持続性の維持には地域の産業が不可欠であるといえる。

 すなわち、地域の人口が維持できるかどうかは、地域の産業の収入(正確に言えば利益)に依存しているといえる。産業への対策なしに、移住促進施策や出産・子育て支援のみを行っても、地域の人口の減少に歯止めをかけることはできないだろう。

※この記事は、私の前のブログ「地域活性化と情報化社会を考える」に掲載していた記事を加筆修正したものです。